わたしの人生に登場した彼

カップルの別れ
妄想

「これでよかったのだ」というより、「この結末しかありえなかったのだ」のほうがしっくりくる。ふと浮かんだその言葉に納得しながら、ハイボールを身体の奥に流し入れた。

‘‘人生を変える’’といった言葉をよく目にするけれど、人生はもともと決まっているのではないだろうか。「これで人生が変わった」と感じても、ほんとうはそれ自体がもともと人生に組み込まれていて、起こるべくして起こったこと。

だとすればやはり、この結末しかありえない。

 

一世一代の恋は、平成最後の夏とともに呆気なく終わってしまった。

まあ、そんなもんだよな。恋って。白く光るテレビの向こうでは、恋に破れた役を演じる有名女優がおおつぶの涙を流している。「わたしのどこが悪かったの?」と縋りつけるほど子どもではないし、彼女のようにさめざめ泣くこともできない。

目の前にトン、と置かれた現実を直視して淡々とお酒を飲む。やわらかな毛布にくるまって、お気に入りの映画を一気に観る。すこし奮発して、おいしいごはんを食べに行く。そんなふうに過ごしていると痛みを感じる余地がない。大人になって、自分の機嫌をとるのが上手になった。

きちんと痛みを感じるべきなのかもしれない。けれど、この結末しかありえなかったと思うと頭と心の奥が冷やされて、平気な顔をしている自分がいることに気づく。

‘‘定められた人生’’はこの先も続く。もしかしたら、また縁が繋がるかもしれない。もしかしたら、繋がらないかもしれない。定められている曖昧な未来が、わたしを楽天的にしてくれるのだろう。どちらの未来が待ち受けているかわからないから平気なのだ。命が終わるときに「ああ、ついぞ彼は現れなかったな」と落ち込めばいい。

それでもやはり、今はすこしだけ悲しい。お互いの知り得ない未来へ進んでいくのだから。恋が終わるということは、相手の見る世界や進む未来に入りこめないということ。それが別れの代償だし、引き受けるべき覚悟だ。

 

彼が好きだったバンドの曲。日曜の昼、毎週のように作ったオムライス。「面白いよ」と貸してくれたアイネクライネナハトムジーク。カフェから持ち帰ってきた紙のコースターを手に、「あれ、俺なんでこれ持ってるんだっけ」と笑っていた夜。「洗濯物を干して畳むのが世界でいちばん嫌い」と不貞腐れる後ろすがたや、185cmある自分を‘‘エヴァンゲリオン’’と話した瞬間。

きっと、この先何十年もふとした瞬間に思い出す。彼がわたしの人生に登場したことを。

めくばせ

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東京でゆるゆると生きながら、ことばと生きている20歳。揺れるものと香水が好きで、小さな幸せを見つけることが得意。イケメンを見ると具合が悪くなるという特性があ...

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