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行動しなければ、‘‘画面の壁’’は越えられない

画面の壁
妄想

姿かたちを知らない人間の「ことば」や「声」に恋をしたことはあるだろうか。画面の向こう側にいる人間をもっと知りたい、近づきたいと胸を痛めたことはあるだろうか。

誰もがスマートフォンを手に生きる現代では、SNSを通して出会う人が増えている。一方で、‘‘画面’’を飛び越えられず会いたい人に会いに行けない、と悩んでいる人もいる。

きっと今夜も、こんな物語がどこかで始まっているはずだ。

生まれてはじめて「ことば」に恋をした

肌を射るような猛暑も和らぎ、平成最後の9月に突入した。あと1ヶ月も経てば、かなり涼しくなるのだろう。夏がくるたびに「嫌だ」と言っているが、光のような速さで日々は過ぎ行き、夏の終わりの足音が聞こえてくるとドッと切なさが押し寄せる。

目的地まで運んでくれる電車に揺られながら、スクロールする右手親指を止める。12分前の、彼のツイートが目に入る。

平成最後の夏。わたしは、生まれてはじめて「ことば」に恋をした。

今年の7月、自室で涼みながらアイスを食べていたら、フォローの通知音が鳴った。何気なく見た彼のタイムラインには、思わず息をのんでしまうことばがひしめき合っていて、できるかぎり遡ってツイートの端から端まで読んだ。高鳴る胸をおさえ、止めていた息を吐きだすのには苦労をしたものだ。

仕事で忙しそうにしながらも、花を愛で、おいしい食事を摂り、夜になるとなめらかで甘い話を置いて現実へと消える。ことばの端々に顔を出す感情から愛への渇望が垣間みえる、歌うように生きる人。

そう、彼は、会ったことも話したこともない、画面の向こう側の人間だった。

「結局、行動した人だけが勝てる世界なの」

自分の恋心に気がつくんじゃなかった。「これは恋だ」と自覚してしまうと、嫌でも意識してしまう。タイムラインに置いていった彼のことばを探してしまうし、内容の真意を知りたくなる。

どんな気持ちでフリックしたのか、それはどんな場所での出来事なのか。彼はどんな人間で、普段は何を見て生きているのか。知りたくて知りたくて、たまらなかった。

「ことばでなら何とでも言える」のかもしれないけれど、その聡明さやユーモアのセンス、滲み出る色っぽさから目を逸らすことなどできやしない。誰だって、彼のことばに触れたらそう感じるはずなのだ。逃げられない、と。

しかし、「会いたいです」とダイレクトメールを送れるほど勇気はない。視界がじわじわと暗くなっていく。そんなわたしを見た友人は飲んでいたアールグレイから口を離し、やれやれというような顔でこう言い放った。

「今の時代、好きって理由だけでダイレクトメールを送って会いに行く人なんて、そこらじゅうにいる。欲しいと口にするだけで行動しない人が、何を手に入れられるっていうの? 結局、行動した人だけが勝てる世界なの。あんたがうじうじしている間に、行動力のある女の子に彼の隣を奪われても知らないからね」

‘‘画面の壁’’を越えるなら、今しかない

恋って、こんなものだったかと思う。毎回だ。毎回、恋をするたびに、「恋ってこんなものだっただろうか」と思う。

窓から入りこむ夜風が頬をなでる。胸に刺さった友人の言葉が、いまだに抜けない。わたしがこうして悩んでいる間にも、行動力のある女の子は次々とハードルを越えてしまうのかと思うと、胃の奥がキリキリと痛んだ。

一体、何で悩んでいるのだ。会いたいと言って断られるかもしれない、「会わなければよかった」と思われるかもしれない、嫌な気持ちにさせるかもしれない……それらはすべて机上の空論だ。欲しいと口にしても行動に移せなければ、手に入れられるわけがない。何も行動していない今のわたしには、まったく意味のない想像に過ぎない。

きっと、今しかない。今しか。

そう強く確信したわたしは、彼がフォローしてくれた瞬間のことを思い出しながらダイレクトメールを開き、わずかに震える指先で文字を打ち始めた。

めくばせ

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東京でゆるゆると生きながら、ことばと生きている20歳。揺れるものと香水が好きで、小さな幸せを見つけることが得意。イケメンを見ると具合が悪くなるという特性があ...

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