八月の夜、一生忘れられない恋

夜と女性
妄想

「次」をどうにか作りたかった恋。「好き」という気持ちだけで軽やかに突っ走れた恋。あなたには、そんな‘‘一生忘れられない恋’’はあるだろうか。

♪ 八月の夜 募る i love you 帰り道に買ったアイス残して また次を また次を どうにか作っていたんだ

懐かしい音楽を聴きながらアイスを舐める。瞬きをしているあいだに、八月になっていた。夏、とくに八月と聞くと、「恋」が浮かぶ。誰にだって忘れられない恋のひとつやふたつあるだろうけれど、わたしの場合、それが八月の出来事だからだ。

「次」をどうにか作っていたあの頃が懐かしい。ただ「好き」という気持ちだけで突っ走れる軽やかさが眩しい。20年と10か月。いくつもの恋を終わらせてきた。いつの間にか、恋を終わらせるのが上手になった。

今回は、わたしが一生忘れないであろう恋の話を書こうと思う。「こうだったらな」という妄想のホイップも添えて。

八月の夜、一生忘れられない恋

人生はショートストーリーではなく、長編小説

高校に入学して数ヶ月。蝉の声が耳奥にわんわんと響くなか、自転車のサドルに腰をかけ、長い黒髪を高い位置で結んだ。くるんと巻いた毛先が、今の心境を表している。中学時代からの親友が、すこし先で「まだー?」と項垂れた。

ずっと憧れていた制服のスカートに目を配り、ペダルを勢いよく踏む。8月の昼下がりは地獄のようだけれど、それでもわたしの心は弾んでいた。彼から、Twitterのフォローが来たからだ。

人生というものは、いつどこで道が繋がるかわからない。ショートストーリーのようにその時々で物語が終わるわけではなく、長編小説なのだ。保育園で離ればなれになり、もう一生会えないと思っていた彼と数年後に再会を果たすことだってある。まさかのちに付き合うなんて、この時のわたしは知る由もない。

「べつに好きだったわけではないし、今気になるというわけでもない」

涼みに入ったカフェでケーキをつつきながら話すと、親友が意味ありげに「そう言ってられるのも今のうちだよ」と笑った。

好きだったわけではない。保育園児のころは、別の男の子が好きだった。今気になるというわけでも、たぶん、ない。Twitterをフォローされるまで忘れていたのだから。それでも、SNS上であろうがなんだろうが、やっぱり偶然の再会にはときめいてしまう。

珍しく食べたくなったチーズケーキは、思っていたよりもずっと甘かった。

人混みの中で、視線がぶつかる音がした

それからは蝉の声も、流れる汗も、咽るような暑さも、なんだかすべてがどうでもよく思えた。太ももの裏をなでるスカートの裾はいつまでもくすぐったくて、意味もなく回ったりした。それに、ポニーテールにした髪を上手に巻けるようになった。

「そう言ってられるのも今のうちだよ」と笑った親友の顔が浮かぶ。連絡先を交換したわたしたちは毎日のように連絡をとり、取るに足らない出来事を報告しあう。離れていた時間をふたり揃って軽々と飛び越え、なんとかして「次」を作りたかったのだ。

 

そんなわたしたちが本当の意味での再会を果たしたのは、地元の花火大会。花火が上がる、5分前。

「花火大会、行くの?」

ピロンと音を立てるiPhoneの画面に、彼からのメッセージが表示されたのは前日のことだ。親友と行く旨を送ろうとする指が心臓と同じリズムで震えていたけれど、気がつかないフリをした。

 

どこもかしこも知り合いだらけだというのに彼は一向に見つからないし、慣れない下駄が痛い。人生、そんなにうまくいくわけがないか。花火がよく見える位置に移動する途中、そんなことを考えながらため息をつき、何の気なしに視線をふと屋台へ向けた時だった。

もくもくと煙が上がる屋台の前に立っている彼。波のように押し寄せる人々の話し声を掻き分け、視線が「ぱちっ」とぶつかる音がした。

人生には、交差点が多い。こんなふうに、あまりにも偶然ぶつかったりする。たまたま視線を向けたタイミングで、たまたま通った道で、出会いと別れが繰り返される。

わたしたちは何もなかったかのように視線を逸らした。見ているはずの花火をよく覚えていない。ただ、ドン、ドンと心臓を打つ音だけが、今もなお耳奥に響いている。

‘‘一生忘れられない恋’’はあるか?

「次」をどうにか作りたかった恋。「好き」という気持ちだけで軽やかに突っ走れた恋。あなたには、そんな‘‘一生忘れられない恋’’はあるだろうか。

恋を終わらせるのが上手になった理由の1つに、彼がいる。のちにわたしたちは付き合った。高校のほぼ3年間、彼を想ってきたから、高校生活を彼なしで話すことはほとんど不可能に近い。

「期待したくない」「面倒くさい」なんてネガティブな気持ち抜きで、「‘‘次’’が欲しい」「好きだから突っ走って伝えたい」と思える恋を、またいつかできたらいいなと思う。

めくばせ

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東京でゆるゆると生きながら、ことばと生きている20歳。揺れるものと香水が好きで、小さな幸せを見つけることが得意。イケメンを見ると具合が悪くなるという特性があ...

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