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高嶺の花男さんにかけられたい”夏の魔法”〜花火〜

浴衣のカップル
妄想

きっかけは同じ大学のサークルで仲の良かった男友達に誘われた花火大会。大人数の見知らぬ人たちの集まる場所は、何歳になっても緊張するし声は上ずるし苦手。それでも行って良かったと思えたのは、君に出会えたから。

あの瞬間、もう私は君に恋をしてしまったんだ。

待ち合わせは、まだ空は明るく身体は汗ばむ気温の午後18時。江戸川の河川敷に赴くと、会場は人で溢れ私は完全に人の波に酔っていた。もう待ち合わせの時間はとっくに過ぎているが一向に見つからない。ラインで「どこ〜」と送った瞬間、着信がなる。

「おい、花奈こっち!右!」電話をかけて来たのはサークルで仲の良かった男友達の光生。サッカー部だった彼の声は河川敷に響き、手に持ったスマホと反対側から耳に入って来た。振り返ると男女数名の中から楽しそうにこっちに手を振っている。

周りにいた人たちの目線が一気に向けられ、思わず顔をうつむかせてしまった。顔が火照って赤くなるのが鏡を見ずともわかった。「花奈、遅い!遅刻したやつには罰ゲームだ!こいつと皆んなの分のビール買って来い!」と言って隣にいた男の子の腕を引っ張って指差した。

君から見た私はきっとただの友達の友達。

「ええ、俺も?1分しか遅れてないじゃん」困ったような表情を浮かべながらも、優しい顔をする男の子。黒髪と紺色の浴衣の間から見える肌は女の私が羨むほど白くて、綺麗だった。「女の子一人に重たい缶ビール持たせていいのか?それでも男か?」光生はその男の子とやけに仲良さそうに話す。

「あの私、力持ちだから一人でも全然持てる…!買ってくるね!」そう言って屋台の方へ足早に向かった。バッチリ10分も遅刻して来たのも、できれば花火が始まるまでの間を少しでも埋めたかった。初対面の人と話すのはあまり得意じゃない。だからせめてみんなの役に立つことをしたかった。

「…待って!花奈さん!」聞きなれない爽やかな声で呼ばれ、思わず立ち止まり後ろを見返す。人混みをかき分け、近づいて来たのはわずかに息が乱れ、汗が頬を伝っているさっきの男の子。「歩くの早くて驚いた(笑)」と言いながらくしゃっと崩れるような笑顔を見せる。時間が0.3秒ほど止まり、胸の真ん中で小さな花火が打ち上がった。

たかが知人Bに向けられた笑顔があれなら恐ろしい人だ。

「なんで、(わざわざ)追っかけて来(てくれ)たの…?」お祭り騒ぎな感情を必死で抑えるように吐き出した言葉は、大事な部分を言い忘れたまま空気を振動させて伝わってしまった。

冷たい言葉だったことにハッとし、訂正しようと言葉を選んでいると彼は「はは。花奈さんって面白いね。俺も人多いの苦手で逃げて来ちゃった。ビール買いに行くんでしょ?一緒にお供させてください♩」と気にしてない素振りを見せた。

「お名前、なんて言うんですか?」さっきから彼は私の名前で呼ぶのでなんとなく知らないのはフェアじゃないと思った。「隼人。花咲隼人(はなさきはやと)って言うんだ。同じ花がつく名前同士よろしく。」「花咲くん…。よろしくお願いします。」

「そっちで呼ぶんだ(笑)まあ、珍しいしなんか新鮮だから花咲くんで。」そう言ってハニカム花咲くんの歯並びは、屋台に並ぶ人達に見習って欲しいほどとてつもなく綺麗に整頓されていた。

君の恋人になる人はきっとモデルみたいな人なんだろう

隣に並んで歩くと思っていた以上に背が高く、すっと伸びた手足はまるで人形のようだった。通り過ぎる女性たちの視線が自然と彼に集まる。「ねえ、見て。あの人かっこよくない?」「わ、ほんとだ芸能人みたい」「隣に歩いてる子は、彼女さん?」「えー違うでしょ。どう見ても不釣り合い。」

これだから女も、人混みも、イケメンも苦手だ。なんの害も及ぼしてないのに肩身がせまい気持ちにさせられる。もっとスラッとして細身の高身長な美女だったら自信を持って堂々と横を歩けたんだろうか。ちらっと横目で花咲くんの顔を伺う。

「ねえ、花奈さん見て!この焼きそば超美味しそうじゃない?あ、こっちのお好み焼いも捨てがたい…!くううう。迷う選べない。」周りの声などまるで聞こえてないかのように少年のようにキラキラと目を輝かせる花咲くん。

「もう、花咲くんったら。ビールの買い出しに来たんだよ!」「えーいいじゃんちょっとくらい寄り道したって。どうせ誰かが差し入れで持って来てたやつ飲んでるだろうし。」口先を尖らせてねだるように甘えた声でいじける姿に、つい負けてしまった。こんな時、美女ならどうするんだろうとまで考えた…。

だめだ何一つ勝てない いや待てよそいつ誰だ

結局、焼きそばとお好み焼きを両方買って、近くの石垣で座って半分こして食べることになった。「お腹すいたね〜。」とお腹を触りながら覗く花咲くん。「さっき屋台並んでた時、隣の焼き鳥屋さんで買い食いしてたじゃん…。」呆れたように突っ込む。

するとハッとした表情で「花奈ちゃん、やっと素を出してくれた。嬉しい!」とはしゃいできた。あまりにも無邪気すぎる姿に、この人は少年の心のまま大人になったんじゃないかとさえ思った。隣に座ると目線がさっきよりも近づいて、脳内の誰かが踊り出す。

「いっただきます♩」丁寧に両手を合わせ、割り箸を綺麗に割って食べる様子を思わずじっと見入ってしまった。「そんな見られると食べづらいんだけど…。もしかしてこっち先に食べたかったとか?それなら、ハイあげる。」

「あ、ありがとう。いただきます…」見惚れてたなんて言えず黙って受け取った焼きそばをすする。ちょっと前まで彼が口にして焼きそば。そう思ったら、今年初めての屋台料理の味はよくわからなくて思い出せない。

悪い意味で夏の魔法的なもので舞い上がってましたって怖すぎる

「ふう、お腹いっぱい。もう満足(笑)」「まだ花火はこれからだよ。ビール買ってみんなのとこ戻ろっ。」食べ終わった頃、辺りはもうすっかり暗くなっていて汗もすうっと引けていた。そして私と花咲くんとの仲も縮まってるような気がしていた。

「危ない。大事な役割忘れるとこだった。」本気で忘れていたみたいに焦る彼に思わず吹き出す。「ふふっ。何しに行ってたんだって言われちゃうよ(笑)」お腹を抱えて笑うと彼も一緒に笑い出す。「はは。花奈ちゃん、いつもの表情もいいけど笑ってた方が可愛いね。」

可愛い。

その言葉に、思わず片手に持っていた焼きそばの空の容器の入った袋を落としてしまった。「わ、やばい。」慌てて拾おうとすると、大きくて白くて綺麗な手が重なった。目線を上げると花咲くんとバッチリ視線が合う。今までで一番近くて同じ高さで重なった花咲くんは、今までに見たことないくらい真剣な顔をして私を見つめていた。

生まれた星のもとが違くたって
偶然と夏の魔法とやらの力で
僕のものになるわけないか

夏の花火大会。浴衣に、屋台に、祭りに、花火。彼氏がいないあなたも、諦めるのはまだ早いかもしれません。だってそこには素敵な彼との出会いが待っているかもしれないから。夏は短し、恋せよ乙女。

ゆるみな。

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22歳。フリーランスのビアクリエイター/ライター・編集/グラビアアイドル。言葉とビールと料理とバスケと猫が好きです。生まれ故郷の秋田のフルーツでビールを造っ...

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