• HOME
  • 妄想
  • 少女漫画のような恋を。嫌いな雨の日にだけ会える彼。

少女漫画のような恋を。嫌いな雨の日にだけ会える彼。

少女漫画
妄想

“好き”と“嫌い”が共存する雨の日

今年もやってきた梅雨の季節。外に出れば濡れるし、空気もジメジメ。薄暗い雲が、なんだか憂鬱な気分にさせる。そんな雨の日が嫌いな人もきっと多いはず。

けれど雨の日にしかないもの、例えば色とりどりの傘でカラフルな景色や、街の光が反射してキラキラ光る雨粒は、雨だからこそ見れる特別なもの。そんな風に、“好き”と“嫌い”が共存することって案外あるもの。それなら嫌いなものも、好きになれたり待ち遠しくなる。

今回は高校生の女の子を主人公に、そんな好きと嫌いが入り混じる雨の日のストーリーをお届けします。

嫌いだった雨の日が、今は待ち遠しい

今日は目覚ましが鳴る数分前に目が覚めた。まだ体は起きていないけれど、意識だけ窓の外に向ける。

昨日の天気予報で言っていた通り、雨が降っている音がした。それがわかると私はパッと起きて、まるで新学期初日のように、気合を入れて身支度を始めた。

バレない程度に薄く化粧をして、仕上げにほんのりピンクのグロスをつける。髪は、雨の日だからすっきりとポニーテールにした。後れ毛をちょうどよく出して、結び目は髪を巻きつけて隠す。スカートは長いと雨に濡れてしまうので、いつもより短めにする。校門の前の電柱の陰で、校則のひざ辺りの長さに戻せば問題ない。

玄関の鏡でもう一度自分をチェックし、傘を開いて家を出た。毎日通っているバス停へ向かう足取りが、いつもより軽いのが
自分でもわかる。

少し前まで多くの人がそうであるように、私も雨の日が嫌いだった。バックも制服も濡れるし、とにかく憂鬱な気分になる。けれどそんな雨の日が、突然、待ち遠しくなってしまったのだ。

私は家から駅まで、バスを利用している。そんな私が乗っているバスに、雨の日だけ乗ってくる男の子が理由だ。その男の子の制服は、この辺だと頭が良くて有名な高校のものだった。きっと普段は駅まで自転車で行っているんだろう。別に何かきっかけがあって好きになったわけじゃなくて、雨の日だけ乗ってくる彼をなんとなく毎回見ていたら、いつの間にかかっこいいと思うようになり、好きになっていた。時間をかけて一目惚れをした感じ。イヤホンをしながら外を眺めている彼や、あまり混んでいない時は単語帳を開く彼を、気づけば目で追っていた。

名前も知らないし、話したこともない。彼の通学バックであるエナメルバッグには、『soccer』と英語で刺繍されているので、サッカー部とだけはわかった。でもそれだけ。だから告白なんてするつもりはない。話してみたいとは思うけれど、好きだけで話しかけられるほどの勇気はないので、この雨の日に静かに見ているだけでも幸せな気持ちになれる。

いつもは遠くの彼が、今日はこんなに近くに

私はいつも通りの時間のバスに乗った。今日はなんだか他の雨の日よりも人が多く、まだ駅までいくつかバス停があるというのに、混んでいる。

そして今日も彼は、私が乗った2つ後のバス停から、サッカー部の男の子らしいちょっと伸ばした、柔らかな前髪についた雨粒を払いながらバスに乗ってきた。やっぱり、かっこいい。人の隙間から彼を覗き見していると、人に押されて反対側を向くことになってしまった。これだと彼が見えない。あとは降りる時しか見えないな、とちょっと残念な気持ちになる。

彼はきっと、私の存在を知らないだろう。いつもバスに乗ってる子だって認識してもらわなくてもいいけど、ちょっとおしゃれにしたポニーテールや、短くしたスカートを履いた私の姿が一瞬でも目に入らないかな、なんてぼーっと考えていたら、次のバス停に着いた。

もうほぼ満員だけれど人は乗ってきて、前から乗っていた人は奥の方へと流される。私はすでに座席の近くでこれ以上は動けなかったので、人の圧迫感を背中に感じていた。その時、何かが私の太もものあたりに当たった。痛くはないけど大きな何か。雨に濡れていたので、私の足に水滴がつく。と、その瞬間

「すみません」

と頭上から声が降ってきた。斜め後ろを見上げると、そこには彼が立っていた。いつもちょっと離れたところから見ていた彼が、私とほぼ空間がないくらいのところにいた。私は時間が止まったように彼の顔を見ていたが、扉が閉まる音で我に返り、

「あ、大丈夫です。」

と返事をした。当たったものは、彼のエナメルバッグだった。太ももから水滴が足を伝い、靴下を濡らす。いつもなら靴下が濡れたら不快な気分しかしないが、今はそんな気分はしない。彼を斜め後ろに感じながら、さっき凝視してしまった顔を思い出す。目はちょっと可愛らしい感じで、くっきりとした二重だった。声は低いけれど、ぶっきらぼうな感じはしなかった。

時々バスの揺れで彼と私の腕がぶつかり、その度にお互いなんとなく会釈をする。この相手がサラリーマンのおじさんだったら、早くバスから降りたいと思うところだが、今だけはこのコミュニケーションが長く続いて欲しかった。

次の雨に日が、早く来ることを願って

もちろんそんな願いは叶わず、とうとうバスは駅に着いてしまった。彼の後に続いてバスを降りる。すると前の彼が軽く振り返り、

「何度もぶつかっちゃって、すみませんでした。」

と申し訳なさそうに、けれどちょっとだけはにかみながら謝ってきた。

「あ、こちらこそ。」

「そんじゃ。」

そう短く返すと、彼は足早に改札へと行ってしまった。私はゆっくりと改札へ向かいながら、今の短い会話を何度も頭の中で繰り返す。別に特別な会話をしたわけではない。けれど彼の視界には、確実に私の姿は入った。きっと顔も覚えてくれただろう。そう思うと、嬉しくてたまらなくなった。

だからといって次にバスで顔を合わせたとしても、彼と話せるとは限らない。でも、『あー!この前の!』となって、会話ができる可能性だってゼロではない。そんな少女漫画みたいなシチュエーションを望んでいる自分が、ちょっとおかしくなった。

とりあえず、嫌いな雨の日の中の好きに会うために、家に帰ったら逆さまのてるてる坊主を作ろうかなと思った。

嫌いな日もきっと、愛おしい日に

“嫌い”の中にこんな“好き”があるのなら、きっと嫌いもいつの間にか愛おしいものになるはず。だってその“嫌い”が存在しなければ、“好き”も存在しないから。

かなこ

89,439 views

ファッション誌もマンガも、モード系もかわいい系も、和食もスイーツもなんでも好きなレインボーガール。バイブルは”ゴシップ・ガール"。“女の子の心にトキメキを届...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧