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連休明けの残業が辛い理由と辛くならない方法

ダニエルウェリントン
妄想

「ふう、これで終了っと。」

今日中に終えようと思っていた仕事に予想外に手こずってしまった。
それも全部、あいつのせい。

「お疲れ様でした、あや先輩♩」

視界の左側、あざとすぎる笑顔で缶コーヒーを渡してくるのは今年の4月から入社した新入社員の男の子。
2年目の私は同じ部署に配属された後輩の指導係を任されていた。

同期の人からは「あんな可愛い後輩羨ましい!」と言われるけど正直代わってくれるのなら、今すぐにでも変わってほしい。

私だって彼の配属が決まった当初は「柴犬みたいでかわいい男の子だなあ」と見とれた。指導係に決まった時はフニャッと微笑んで「よろしくお願いします、先輩。」と言われ、不覚にもときめいた。これから毎日一番近くであの顔を拝められるのかと思ったら、浮かれてしまってその日の夜は缶ビールを二本も空けた。

しかし、現実はそんな甘くない。

新卒で入った彼は、世でいう「ザ・ゆとり世代」。私だってゆとり世代には一応入ってると思うんだけど、これほどまでに「ゆとり」を代表する態度を見せる若者を見たのは初めてに等しかった。朝は取引先との打ち合わせがあっても平気で遅刻。昼は眠くなって集中できないからといってディスクで昼寝。夕方17時になると人目を盗んで足早に帰ろうとする。

「慣れない環境に疲れているんだろう」と4月は大目に見ていたが、GW明けの今日ばかりは許しがたい。朝1時間も遅刻してきた上に、GW中に課題として渡していた資料をなくしたというのだ…。GW前「このくらいなら余裕っす!」と白い歯を見せてドヤ顔で言った彼を見て、少しは信用してみるかと思った私が馬鹿だった。

慌ててパソコンから資料を引っ張り出し、GW明け早々5時間に及ぶ残業をすることになってしまった。同棲中の彼に「ごめん、今日遅くなりそうだからご飯先に食べてて。」とだけ送る。「よし。」と小さく気合を入れた後パソコンに向かってひたすら文字を打っていった。

さすがのザ・ゆとり男子も今回ばかりは申し訳ないことをしたという気持ちが芽生えたのか、私の横で「ごめんなさい…」とまるで耳が垂れたみた子犬みたいな声で謝ってきた。その姿に横目もくれず、黙々とキーボードを打つ私。「俺にできることあったら手伝います」といって肩を揉んだり、印刷した紙を取りに行ったりして必死にご機嫌を取りにきた彼。

はたから見たらただの性格の悪い上司だ。深呼吸をして自分を落ち着かせる。ここで彼に当たっても仕方ない。私が任せた責任もあるんだ。そう思ったらはじめは鬱陶しかった彼の態度も、次第になんだかおかしく思えてくる。次第に「もっと強く揉んで」とか「お腹すいたからコンビニの唐揚げ買ってきて。あ、でもファミマはダメ。このビルの裏にあるローソンのやつがいい。」といって彼をわざと困らせた。

「ええ、あそこ地味に遠いのに…」と言いながらも、渋々財布とケータイを持って買いに行ってくれた。「ふふ、本当に犬みたい(笑)」憂鬱だったはずの残業だったが、たまにはこういうのも悪くないなと思った。

知られたくなかったけれど、気づいて欲しかったこと。

「た、たらいまあ〜。」腑抜けた声を発した子犬男子がお遣いから戻ってきた。「おー、おかえり。買えた?」よろよろの彼から袋を受け取り「ほんと、弱っちいな笑」と笑いながら中をのぞく。「あれ。」

お願いした唐揚げくんの他に私がいつもこっそり飲んでいるカルピスと、常にディスクに潜めているビスコが入っていた。この二つが好きなんて彼氏にも言ったことないのにな…。

「からあげクン、チーズじゃないんだ…。頼んでないものも入ってるけど、自分用?」動揺してるのを気づかれないようにさりげなく聞いてみるはずが声が思いの外、上ずってしまった。

するとさっきまでバテバテだった顔をころっと変えて「え?違うよ。先輩いつもそれ隠れて食べてるじゃん。よっぽど好きなんだなあって。コンビニで目に止まっちゃって、買ってきちゃった。」と舌をペロッっと出しながらおちゃらけてきた。

ずっとお子様みたいに思われるのが嫌で、誰にも言えなかった好きなもの。知られたくない秘密がバレたみたいで、なんだか恥ずかしくなった。

「あれ…先輩、顔赤いよ?もしかして、具合悪いの?」

「え…。違う、大丈夫。ちょっと暑かっただけ」

と言って慌てて社内の空調ボタンを押そうと立ち上がった。すると目の前がぐらっと揺れ、世界が横向きになっていくのがわかった。倒れる…!そう思った時には、体は彼の胸の中にスッポリと収まっていて。

「あれ、こんな体おっきかったっけ…。」とぼーっとする頭で、彼が子犬ではなく一人の男だということを実感した。そしてそのまま意識を離した。

「…んぱい!…先輩!」

遠くから声が聞こえる、徐々に意識を取り戻していった私は瞼を開くより先に「仕事」のことを思い出した。「やばい!今日までの資料!!」大声で起き上がった私の様子にびっくりしたのか「わあああ!」と尻餅をつく彼。

「あれ。ここ、どこ?」見慣れない景色に混乱していると「俺の家です」と子犬のような真ん丸の目で彼が見つめてきた。「え、家…?」「そう、マイハウス」意識が少しずつ回復し、今の状況を把握する。

「やばい」顔が青ざめた。時計を見ると時刻は午前一時を回っていた。彼に連絡しなきゃ。あ、資料。どうしよう。家に持ち帰ってやる?いや、でも今まで何してたって話になるよね。正直に話す?でも男の家で寝てましたはやばい。いくら部下だってやばい…。

「あ、そういえば資料完成させて送っておきました。」「え?」頭を抱えていると予想外の言葉が帰って思わず聞き返す。「だからあの資料、先輩が寝込んでる間にやっておきました」「できたやつ見せて」半信半疑でできたという資料を見る。「ほい♩」「あれ。すごい、できてる。っていうか最初より綺麗にまとまってない?」非の打ち所が見当たらないくらい完璧な仕上がり。

「本当ですか?やったー!」「これ、本当にあなたがやったの?」「他に誰がやるんですかw」「それもそうよね…」こんなのすぐにできるものじゃ無い。「なんでこんなできるのに今までやらなかったの?」今までだって似たようなものはあったしこの課題だって余裕だったはずだ。

「だって、先輩の困ってる顔見るの好きで。できない部下の方が面倒見てくれるじゃ無いですか。」いきなり真顔になったかと思えば、左腕を掴んで急に顔を近づけてきた。「ちょっ」

「好きです、先輩。彼氏いるのも。彼氏と同棲してるのも知ってるけど今日だけは帰らないでください」すぐにでも振り払って立ち去ることはできたのに、彼の見つめる目に吸い込まれてしまって振りほどくことができなかった。

掴まれた左腕の薬指にはまったリングは、部屋の蛍光灯が反射して鈍く光っていた。

いいイメージのない”残業”にすら、夢を見たい。

新社会人、任されることもきっと増える頃。

読んでいるあなたが、先輩なのか後輩新卒君なのかはさておいても、あまりいいイメージのない”残業”に、ちょっとだけ夢を見たい。

ゆるみな。

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22歳。フリーランスのビアクリエイター/ライター・編集/グラビアアイドル。言葉とビールと料理とバスケと猫が好きです。生まれ故郷の秋田のフルーツでビールを造っ...

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