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深夜のシアタールーム、映画のワンシーンのような恋の始まり

夕焼けとマンション
妄想

明日は休みだし、たまには一人の映画ナイトもいいかもよ?

1人でできることが増えたから、できないふりもできなくなった。

「今日はなんだか、まっすぐ家に帰りたくないな…」

カフェでの作業を終え、むき出しの天井を見上げながらふうっと息を吐く。ここ数日、納期の迫った原稿を書くことに追われほとんど誰とも会話していないことに気づく。記憶にある限りでは行きつけのカフェの店員さん、家のそばにあるコンビニのアルバイトの人、それに同じマンションに住むサラリーマンに挨拶したくらいだった。

「今日の夜、ご飯行かない?」と打ちかけたラインのメッセージは送れず、アプリを閉じる。
これで何度目だろうか。自分から誰かを誘うことに抵抗があった私は、いつのまにか一人でなんでもしてしまうようになった。
別に一人が嫌いなわけじゃない。一人でご飯もたべれるし、カラオケもいける。
ただ、不意に自分が社会から孤立してるような気がして寂しくなるだけだ。

結局、誰のことも誘わず一人で映画館に行くことにした。気になっていた映画の上映時間をスマホで調べる。
恋人はスマホなんじゃないかと思うくらい、最も身近にいて最も頼りになる存在だ。
「こいつがいるから好きな人すらできないのかもしれない」なんて言い訳じみたことを考えながら、映画館へ。

平日の夜だからか、館内にはちらほらと大学生のような団体やカップルがいるだけで程よく空いていた。
チケット販売機の列に並ぶ。前にいる男女の幸せそうな表情と、一人身の女の疲れ果てた表情のコントラストは鮮やかとは程遠いものだ。
戸惑うことなくチケットを買う。こんな時、使い方がよく分からなくて可愛くお願いできる女の子だったら彼氏だってできていたんだろうか。
「できる」が増えていくことに怖さを感じた。

大きいサイズのポップコーンとカルピスを携え、ゲートに立つ爽やかな笑顔のお兄さんにチケットを見せる。ポップコーンの方に目をやって一瞬目を見開いた後、3番スクリーンへ案内された。「晩御飯食べてなくってお腹空いてるんです」と言いかけた言葉を飲み込んで、3番と表示された看板の下の入り口をくぐる。薄暗い廊下をまっすぐ進み折り返しのところまで行くと、スクリーン側から座席全体が一望できた。

4割ほど埋まった席にはさっきチケット売り場で見たカップルの姿や、お手洗いですれ違ったキラキラ女子たちも座っていた。席の間の階段を足早に登り、一番後ろの端っこの席に腰掛ける。昂ぶる気持ちを抑えきれずポップコーンを頬張っていると、前方からスーツを着た若い男性がゆっくりとこちら側に向かってくる。

暗くてぼんやりとしかわからなかったが、申し訳なさそうに眉を垂らし「あの…多分席、間違ってます…」とか細い声で声をかけられた。慌ててチケットを確認する。一つ隣の席と勘違いしていたみたいだ。「あ、ごめんなさい。」そう言って一つ隣の席にずれる。「あ、いえ。」と言った後、何かを思い出したかのようにふっと笑って「僕もよくやります(笑)」と呟いた。「なんで笑ったんだろう」と思いながらも、優しいフォローの仕方に心がふわっと浮いた。

さっきまで座っていた席に彼がいる。映画のスクリーンから放たれる光で浮きだった横顔は、いつかの美術館で見た絵画のように綺麗でつい見とれてしまった。
その視線に気づいたのか、目線だけこっちに向けアイコンタクトされて、一瞬目をそらした後口パクで「見過ぎ(笑)」と注意されてしまった。

まだ映画が始まったわけじゃないのに、手が汗ばむ。さっきまでの高揚感とは明らかに違った緊張が背中をはしって背筋が伸びる。間も無くして照明が落ち予告が次へ次へと流れていく。画面が切り替わるたび、小さくリアクションを起こす隣の彼に意識が向いてしまう。楽しみにしてたはずの映画の内容は頭の中をすり抜け無数のスポットライトの中に吸い込まれていってしまった。

スクリーンに照らされた横顔に恋をする。

2時間半の物語はあっという間で、エンドロールでは涙を流して鼻水をすする音が会場にこだましていた。その中でも一際泣いているのが、スーツを着た立派な大人の男の人というのがなんだか微笑ましかった。きっと心が少年のままのピュアな人なんだろうな。号泣する彼に「よかったら使ってください」とハンカチを渡す。「うっ、うっ、うぐっ。ありがどうございます…..」涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔が可笑しくって、可愛かった。

スマホの画面を覗くと、終電が迫っていることに気づいた。「じゃあそろそろ。ハンカチ返さなくていいので、使い終わったら捨てちゃってください。そろそろ新しいのに買い換えようと思ってたんです。」そう言って立ち上がり彼の座る席の前を横切ろうとした瞬間、「あ、待って!」と腕を掴まれ体制を崩してしまった。私の体は彼の膝の上に乗っかり、顔の左側に彼の顔があった。距離はわずか10センチ。

顔がほてり、体が熱くなる。幸い一番後ろの席だったため誰も気づいてないようだった。彼は「あ、ごめんなさい!でも、連絡先知りたくて。また今度、映画一緒に見に行きませんか。もちろんその時はちゃんとハンカチ持ってきます。」と言ってスマホをポケットから取り出す。

「えっと、その、ぜひ。」
恋人だと思っていたスマホはこの日から、私と彼をツナグ恋のキューピットになった。

ナイトムービーに憧れて、出て来た夜に、ハプニングの一つくらい。

ナイトムービー、ナイトシアターが普通になって来ている昨今。 まあ、ないであろうこの展開にすら憧れる。
それでも、仕事と人間関係に勉学に、疲れた夜のナイトムービーは、もしかしたら何かの気持ちを思い起こさせてくれるかも、なんて期待を持って夜を闊歩してみたい。

ゆるみな。

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22歳。フリーランスのビアクリエイター/ライター・編集/グラビアアイドル。言葉とビールと料理とバスケと猫が好きです。生まれ故郷の秋田のフルーツでビールを造っ...

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